ニューロンの新生と記憶

【今週の目次】
1. STEMウォッチ 2. 近況報告

1. STEMウォッチ
私が注目する「科学、技術、工学、数学」の情報を、隔週で紹介するコーナーです。

第3回 「ニューロンの新生と記憶」
「脳の神経細胞(ニューロン)は、大人になると新たに生まれることはない」という考えは長らく定説だった。しかし、実際には1960年代に成体ラットの脳においてニューロンの新生が生じていることが突き止められており、その知見が90年代後半になるまで広まらなかったことは、不運な成り行きであった。

今では、ヒトを含む哺乳類の脳の特定の部位(海馬など)において、生涯にわたってニューロンの新生が続いていることが知られている。また、海馬の新生ニューロンの機能についても、記憶の形成や抗うつ作用を担っていることを示す数多くの研究がなされてきた。

自発的な運動習慣やストレスのない生活が、海馬におけるニューロンの新生を促進させ、シナプスの可塑性を高めるということも、マウスの実験から知られている。

【photo】
Exercise

記憶における海馬の役割は膨大な知見と謎に満ちていて、今なお精力的に調べられているようだ。記憶アスリート達が用いる記憶術「記憶の宮殿」などでは、こういった海馬を働きを上手く利用しているように見える。彼らの洗練された経験的技術が、今後どのように科学の研究と結びつくのか、なかなか楽しみである。

【参考サイト】
脳におけるニューロン新生を初めて突き止めたアルトマン博士の仕事についてなど、各所に分かりやすい説明があるが、日本神経科学学会の「脳科学辞典」は素晴らしい。自発的な運動習慣がニューロン新生を促すことを示した実験についての論文(英語)は眺めるだけでも楽しめた。

記憶術に関しては、ジョシュア・フォア氏の「ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由」という本がタイトルを裏切る濃密な面白さなので、お薦めである。

 

【今週の目次】
1. STEMウォッチ 2. 近況報告

投稿者: miurror

韓国高等科学院 (KIAS) 研究員 / 数理科学絡みで色々な研究をしています。最近は人工知能やバーチャルリアリティなどの情報技術を、数学的現象を観測する手段として用いることに関心があります。