4次元積み木を作ろう

この記事は、数学カフェ_4次元コンテンツ出展の記録 Advent Calendar 2016 の、初日の記事です。



私たちは今年、4次元のVRコンテンツを制作し、
11月5, 6日のサイエンスアゴラに出展しました。
企画のページは以下になります。
4次元を見てみよう~情報技術で描く数学の未来~

はじめ、あまりプログラミングに経験のなかった私は、
「4次元積み木」が出来たら嬉しいな、と軽く妄想していただけでした。
しかし、この妄想は日に日に重篤になっていきます。
いまや私が「4次元積み木」に賭ける思いは真剣そのものですが、
今日はそれについて少し説明(弁解)を試みたいと思います。
(「4次元積み木」がどんなものかについては別記事で書く予定です。)



その前に少しだけ経緯を振り返ると、
実際には、4月ごろから、妄想を口に出して周囲の反応を伺ったり、
研究の公募に出してみたり、技術に詳しい人たちから話を聞いてみたりと、
やみくもに動いていました。

5月中旬にサイエンスアゴラの話を数学カフェの中の人に持ちかけたところ、
次第に興味を持ってくれる方々が集まり、
サイエンスアゴラまでに一定の形に出来たことは、本当に嬉しい出来事でした。
このあたりの経緯は、明日の記事で、数学カフェの中の人も書いてくださると思います。



それでは、なぜ「4次元積み木」を真剣に考えるのか、
私なりの説明をしていきたいと思います。

実のところ、その理由には、私の「数学観」が深く関わっています。
数学者としてひよっ子の私が自分の数学観について論じるのもおこがましいので、
私の好きな、小平邦彦先生のエッセイ「一数学者の妄想」を紹介し、
若干の補足を加えることで説明に繋げようと思います。


「一数学者の妄想」の紹介

このエッセイは、「数理科学」1975年6月号に載せられたもののようですが、
以下の文庫本「怠け数学者の記」に収録されている
別のエッセイ「数学の印象」(「数学のすすめ」1965年5月)においても、
同じような数学に対する考えや概念が語られており、
小平先生が長く抱いてきた数学観を簡潔にまとめたものであると分かります。

小平先生は、数学的現象というものが自然の一部として実在している、
とみなす考えを、いろいろな所で述べています。
これはきっと数学に携わる人にとっては、共感しやすい考えだと思いますが、
このエッセイではさらに、数学者はその数学的現象を「感覚」によって
知覚しているのだという、非常にユニークな視点が持ち込まれています。

数学を理解するということは、その数学的現象を「見る」ことである。「見る」というのは勿論目で見るのとは異なるが、ある種の感覚によって知覚することである。私はかつてこの感覚を「数覚」と名付けたことがある。

人間にとって、この数覚が未発達であることをたとえた色彩画家たちの議論は、
数学を前にしたときの、私たち人間の卑小さを巧みに言い表していて、実に愉快です。
また、数覚が本当に純粋な感覚と並べられるようなものなら、
矯正や進化も可能なのかもしれないと思わせます。

将来人類が進化して数覚が発達した暁には、現在われわれが苦心して証明している定理が数覚によって一目瞭然証明なしに分るようになるのではなかろうか?


数覚提示技術を目指して

私は8年間、ある種の高次元の図形を研究してきましたが、
数式処理ソフトを用いて実験したり、見えない不変量を計算したりする中で、
このソフトが足りない数覚を補助しているのではないか、と感じるようになりました。

一方、様々な感覚を実質的に提示することを目指す技術、
すなわち、バーチャル・リアリティの技術が近年大きく進歩していることを知り、
視覚や聴覚と同様に、数覚を提示する技術もいつかは可能になるかもしれない、
という考えに至りました。

私が研究しているような高次元の図形も、
100年後にはまったく違った方法で知覚出来るようになっているのかもしれない、と。

「4次元積み木」が、そのような技術に繋がる可能性があるのかは、
もちろん全く分かりません。それに、「4次元積み木」が完成したとしても、
当面、扱える数学は原始的なものに限られるでしょう。
それでも私は、このわずかな可能性から、
「4次元積み木」を真剣に追及する価値があると思うようになりました。



「4次元積み木」に対するこのような独特の期待は、
あくまで数学を研究してきた私個人の考えに過ぎないのですが、
共感して、協力や応援をしてくださる方々がいることは、本当にありがたいことでした。

また、今回のサイエンスアゴラでは、私とはまったく異なる背景を持つ方々が集まり、
それぞれまったく異なる視点から、4次元を見てみたいと感じて下さったようです。
そんな皆さんの視点は、また明日以降の記事の中でまた語られると思います。

投稿者: miurror

韓国高等科学院 (KIAS) 研究員 / 数理科学絡みで色々な研究をしています。最近は人工知能やバーチャルリアリティなどの情報技術を、数学的現象を観測する手段として用いることに関心があります。